ライブラリにアップロードしたJVのデータを制作して、大分様子が分かってきましたので、これまで試行錯誤で入手した情報を公開します。
1.はじめに
JVとGSの違いは音色の設定の仕方だけです。それ以外のNote/CC/PC/PBなどのパラメータを使って音楽作りする点に関しては普通のDTM音源と同じです。
デュレーション、ヴェロシティをいじってフレージングを決める。エクスプレションを付けて表情付けする、テンポを動かして緩急を決める、ピッチベンドを使ってニュアンスを付けるなど普通の音源と同じようにデータを作りできます。これらのパラメータの効き方は一般のDTM音源でも機種により、かなりの差がありますけど、JVもいっしょです。音を聴きながら調整するということになります。
2.JVとGSは何が違うか
JV-1010は、Roland社の製品系列としてみると、手弾きのキーボードの補完用の音源モジュールという位置付けなので、SCシリーズなどのいわゆるDTM音源とは設計コンセプトが違います。このコンセプトの違いさえ理解すれば、基本的にはコンピュータから操作可能な16パート、64音同時発音可能なマルチティンバの音源ですから、十分、DTM用の音源として使えます。
JVとSCの違いの例をあげてみましょう。
例えば、JVの音色のヴェロシティの下限は30位になっていて、それ以下にしても音量は小さくなりません。これは、楽器のキーボードではヴェロシティ30以下でちゃんとコントロールしながらは弾くということは実質的に不可能なので、いくら弱く(スピードを遅く)キーを押しても、同じ最低音量にしてしまった方が使いやすいということだと思います。
MIDIでは、どうしても30以下の音量が欲しければ、cc07かcc11を使うしかありません。もう一つ例をあげると、GS音源の場合はGSリセットという音源の初期化用のSysexがあって、これで初期化して音を鳴らすというのが常識ですが、JVにはGSリセットに相当するSysexはありません。
初期化したければ、パネルからかなり複雑なボタン操作するか、初期化用のバルクダンプをパソコンから送り込むしかありません。どちらの方法をとっても、メモリの内容を初期状態に置き換えるという意味ではJV内部の動作は同じはずですが、電源を入れただけ、またはSysexコマンド一発で初期化できたGS音源とは大きく異なります。
これはDTM音源としてみると、「何を考えているんだ」という仕様ですが、手弾きのシンセサイザ用の音源としては当たり前の仕様なのですね。JV-2080やXPシリーズの場合、音色の調整はパネルでやるのが常識で、調整済の音色はそのままメモリ上に保存しておくというが普通です。せっかく作った大事なユーザパッチ(音色)を、リセットした(電源を落とした)だけで、パアにしちゃいけないというわけです。従って、GSでは、リセットした初期状態に対して、NPRN、CC、Sysexなどを使って音色作りするというやり方が普通ですが、JVの場合は、バルクダンプをを使い、あらかじめパソコン上で、初期設定、パッチの選択、音色作りなどを行ってから、編集したバルクダンプををまとめて音源に送り込み、音源の設定を行うということになります。
MIDIデータとしてみると、どちらも曲の頭に設定用のデータがずらずら並んでいるという意味では同じですが、GSはCC中心、JVはSysexだらけ(^^;;、というのは大きな違いとなります。
3.バルクダンプ
バルクダンプというのは、Sysexを種類別にアドレス0から並べた全ダンプのことです。普通のシーケンサなら、音源とやりとりし、送受信することができます。ただ、それでなくても分かりにくいSysexを複数たばねたシロモノですので、べた打ちの16進データをそのまま眺めると目がくらみます(^^;;。シーケンサのSysexの編集機能だけで、処理するのは不可能でしょう。
適当なエディタプログラムを使ってバルクダンプを編集しましょう。Windowsについては、FMIDITOLに海外製のフリーのエディタ二つ(WinJV、ChangeIt!)と僕の作ったプログラム(SysexEdit)をアップロードしてありますので、よろしければお使い下さい。
またバルクダンプをいちいち音源からとってくるのは大変です。これも海外のウェブサイトに内部音色及び主要なエクスパンションボードのバルクダンプがありますので、利用しましょう。JVのSysex情報ですが、以下の構成をとります。
システム情報 : コモン、チューン
システム全体に関する共通情報・システム領域(演奏に使用される領域)
パネル操作、Sysexの送信で変更可パフォーマンス情報 : コモン、パート
パート=チャネルに関する情報)・テンポラリパフォーマンス領域(パフォーマンスモードで演奏に使用される領域)
パネル操作、Sysexの送信、システム情報で変更可
・ユーザパフォーマンス領域(ユーザ専用のパターンを保存する領域)
パネル操作、Sysexの送信で変更可
・内部パフォーマンス領域(プリセットされたパターンを保存する領域)
変更不可(ROM)パッチ情報 : コモン、トーン
音色に関する情報・パッチモードテンポラリパッチ領域(パッチモードで演奏に使用される領域)
パネル操作、Sysexの送信、パフォーマンス情報で変更可
・パフォーマンスモードテンポラリパッチ領域1-9,11-16
(パフォーマンスモードで演奏に使用される領域)
パネル操作、Sysexの送信、パフォーマンス情報、CC0/CC32/PATCH番号で変更可
・ユーザパッチ領域(ユーザ専用のパターンを保存する領域)
パネル操作、Sysexの送信で変更可
・内部パッチ領域(プリセットされたパターンを保存する領域)
変更不可(ROM)
・エクスパンションカードパッチ領域(プリセットされたパターンを保存する領域)
変更不可(ROM)リズム情報 : コモン、ノート
リズム音色に関する情報・パフォーマンスモードテンポラリパッチ領域10
(パフォーマンスモードで演奏に使用される領域)
パネル操作、Sysexの送信、パフォーマンス情報、CC0/CC32/PATCH番号で変更可
・ユーザリズム領域(プリセットされたパターンを保存する領域)
パネル操作、Sysexの送信で変更可
・内部リズム領域(プリセットされたパターンを保存する領域)
変更不可(ROM)
・エクスパンションカードリズム領域(プリセットされたパターンを保存する領域)
変更不可(ROM)ただし、パネル操作はJV-1010では一部を除き不可です。
JVのSysexはシステム全体の機能の設定に関するシステム情報、システム全体のイフェクトとパート毎の設定に関するパフォーマンス情報、個々の音色の設定に関するパッチ情報、リズム音色の設定に関するリズム情報の4種類からなります。パフォーマンス情報、パッチ情報、リズム情報については、MIDI演奏中のワーク領域(RAM)として使われるテンポラリ領域と、使用者が自分の独自のデータを残しておくためのユーザ領域(RAM)と、プリセットされたROM領域に分かれます。RAM領域の情報はsysexを使い自由に書き換えることができます。
また以上のそれぞれの情報は共通のパラメータを集めたコモンと呼ばれる情報と個々のパラメータを集めた個別の情報(それぞれチューン、パート、トーン、ノートと呼びます)に分かれます(このへん詳しくは僕のサイトの情報を参照して下さい)。注意する必要があるのは、パッチ情報ですが、パッチモードではテンポラリパッチと呼ばれる一時領域に移して使用されるのに対して、パフォーマンスモードでは16パート分あるパフォーマンスモードテンポラリパッチと呼ばれる一時領域に移して使用されることです。パフォーマンスモードというのはマルチティンバーでJVを使うという意味で、MIDIデータはこのモードで動くのが普通です。「テンポラリ」、「パフォーマンス」、「パッチ」という単語がいろいろな組み合わせで出て来て、順番が重要な意味を持つというとんでもない命名ルールになってますので、ただでさえ分かりにくいJVのSysexの説明をますます分かりにくくしてくれるわけですね(^^;;。
以降の説明では、
テンポラリパフォーマス TempPerf
テンポラリパフォーマスコモン TempPerfCom
テンポラリパフォーマスパート TempPerfPart
パッチモードテンポラリパッチ PatTempPat
パフォーマンスモードテンポラリパッチ PerfTempPat
パフォーマンスモードテンポラリパッチコモン PerfTempPatCom
パフォーマンスモードテンポラリパッチトーン PerfTempPatTone
と省略して表記します。これでも相当に分かりにくいですが(^^;;、ずらずらとカタカナが並ぶよりはましでしょう。カタカナでパフォーマンスコモン表記する場合は、テンポラリ領域、ユーザ領域、ROM領域を区別する必要のないことを意味します。
しかし、頭文字だけにしようとしたら、TPだの、PTPだの、同じ表記で二つの意味もっちゃうからできない。ローランドのDTMユーザに対する悪意を感じさせる命名規則だなぁ(^^;;;。バルクダンプはこのコモンまたは個別部を最小単位として構成されていて、編集もこの最小単位を基本として行うことになります。ただ、実際には個別部分間、コモンと個別部は相互に関連しますし、システム、パフォーマンス、パッチという大きい単位の間でも相互に関連するパラメータがあります。この関連を理解しないと編集はできません。
JVのマニュアルの欠陥はこの関連に関する説明が不足していることです。たとえばパフォーマンスモードでリバーブに関連するパラメータはパフォーマンスコモン、パフォーマンスパート、パッチコモン、パッチパートの4箇所にありまして(あとCC91で指定すると、これも影響する)、それぞれが相互に関連して、最終的なリバーブ値が決まるのですが、この説明はマニュアルのどこにもありません。
個々のパラメータの説明はあるけど、相互の関連の情報がないので、エディトできない。結局、「なにがなんだか、さっぱり分からん。ローランドはもうちょっとJV-1010を分かりやすくしてくれてもバチはあたらないのにぃぃぃ」となる訳です(^^;;。白状すると、僕もこの関連付けはまだよく分からない部分がいろいろあります。また、いままでの試行錯誤で分かったことを丁寧に解説しようとすると膨大な記述となります。
従って、以下はクラシック系のMIDIデータを作る時の使いこなしを中心として、ポイントだけ書きます。技術的な詳細については僕のウェブサイト(JV-1010情報メモ)を参照して下さい。
4.音源の設定(システム情報)
JV/XPては、初期リセットするコマンドがないので、バルクダンプでまとめて設定します。対象になるバルクダンプはシステム領域とテンポラリパフォーマンス領域です。
システム領域に関しては、大部分のパラメータはは工場出荷状態の内容そのままでOKですが、以下は演奏する条件に合わせて修正する必要があります(括弧内は該当する領域名とアドレスです)。・Sound-Mode
工場出荷状態のディフォルトはPATCHモードになっています。マルチティンバーで使うにはPERFORMANCEモードに変更する必要があります。
・Scale-Tune-Switch
ディフォルトはOFFですが、音律のチューニングを行うなら、ONに変える必要があります。
・Patch-Remain
これはよく分からないのですが(^^;;、ONにしておいた方が無難そうです。
これだけです。案外、簡単でしょ。
あとテンポラリパフォーマンス領域にもバルクダンプを送る必要があるのですが、音源の初期化に関してはディフォルトのままでOKです。音色の調整でいじる必要のあるパラメータがありますが、後述します。
5.音色の選択
GSの場合、音色の選択はバンクとPCで行いますが、JVの場合はバンクとPCを使う方法とSysex(バルクダンプ)を使う方法があります。GSユーザからみるとバンクとPCを使う方法の方がわかりやすいのですが、JVの設計コンセプトにさからわないためには、バンク&PC方法は曲の途中で音色を切り換える場合に限定して、初期設定ではバルクダンプを使った方がいいと思います(僕はそうしています)。
理由は、JVでは音色がキーボードで鳴らすことを前提に調整されているので、そのままではMIDIデータで使えないからです。バンクと音色番号の方法で設定しても、その後にSysexによる音色の修正は避けられません。
例えば、パンの設定ですが、オーケストラカード1では全ての音色は Alternate Pan の指定がオンになってまして、そのままにしておくと1音毎に左右から交互に発音され、CC10をどんな値に設定しても定位してくれません(^^;;。他にもイフェクト関連の情報(ディフォルトのままでは、一つの音色がパッチモードとパフォーマンスモードで異なる音で鳴ります^^;;)、オクターブ(音色により、オクターブ高くなっているものや低くなっているものがざらにあります^^;;)など、いじらなければいけないsysexのパラメータはいくつかあります。
使う音色の設定ですが、編集した音色のバルクダンプをPerfTempPat領域に送り込むという方法をとります。
この場合、注意していといけないのは前項で述べたTempPerfPart領域のバルクダンプをPerfTempPat領域のバルクダンプより先に送信すること。でないと、パフォーマンスパートのパッチ指定により、せっかくPerfTempPat領域に送信した内容が上書きされてしまいます。
これを忘れて、ついうっかりやっちゃって、「あれ、また音色おかしくなった」とあせることが、よくあります(経験あり^^;;;)。ちなみに、パフォーマンスパートのパッチ指定ですが、Patch-Group-Type、Patch-Group-ID、Patch-Numberの三つのパラメータにより指定します。この中で、Patch-Group-IDですが
Patch-Group-Type=0の時、0:? 1:USER 2:CARD 3:PRA 4:PRB 5:PRC 6:GM 7:PRE
Patch-Group-Type=2の時、2:ORC1 5:ETHNIC 7:SSS 9:SESSION 13:VOCAL 16:ORC2
となります。
Patch-Group-Typeがエクスパンションカードの時(=2)、カードの製品番号のサフィックスをそのままIDとなります。JV-2080ではエクスパンションカードをさす位置は自由ですから、他の2080でMIDIデータを正しく演奏させたければここをちゃんと設定しておかないと、装置間の互換はとれません。
この情報は、上記したPerfTempPat領域にバルクダンプを送り込んで音色を指定するという方式をとる場合は、TempPerfPartの指定でPerfTempPat領域に読み込んだ内容は上書きされるので、使用しません。
しかし、パッチトーンのウェーブファイルを指定するためのPatch-Group-IDも同じ方式をとっています。従って、音色の設定するためには非常に重要な情報になります。
ところが、どういうわけか、JV-1010/2080のマニュアルにはこの情報に関する記述がありません。まあ、バルクダンプを眺めれば、すぐ謎解きできるので、隠し情報というわけじゃないと思いますが、いったいローランドは何を考えているのか、不思議です。以上、脱線しましたが、ご参考まで。次に、弦のArcoとPizzのような音色の切り換えですが、ちょっと乱暴ですけど、切り換えたい音色のバルクダンプをユーザパッチ領域に送り込んでおいて、音色番号で切り換えるという方法が一番簡単です。あらかじめCC00,CC32を設定しておけば切り換えはPCだけで済みます。
この方法を使えば、ヴェイオリンの弦/音域別にパッチ音色を作っておいて、PCを使って切り換えるという手がとれますので、SCみたいにヴェイオリン独奏曲に16チャネル全部割り当てる(^^;;なんていう荒技は必要なくなります。つまり、その気になれば、ヴァイオンリンの弦、音域、奏法別に128種類の音色を用意していおいて、一つのチャネルでを使いわけるということができるわけです(^^;;。
JV-1010の場合、ユーザパッチ領域はテンポラリパッチ領域の拡張という扱いですから、遠慮なくユーザパッチを書き換えましょう。
6.音色の調整
この部分がJV-1010の使いこなしで一番分かりにくい部分です。何故わかりにくくなるかというと、音色は、パッチ情報だけでなく、パフォーマンス情報と関連して決まるためです。
JV-1010はEFX、コーラス、リバーブといったイフェクトをシステム全体でそれぞれ一つしか持っていません。パフォーマンスモードでは、このシステム全体のイフェクトは、TempPerfComのEFX-Sourceで指定したTempPerfCom領域かPerfTempPatCom領域のイフェクト情報によって決まります。ところが、パッチモードでは、個々の音色のイフェクトは、PatTempPatCom領域の情報に基づき決まります。従って、パォフーマンスモードとパッチモードでは使用されるイフェクト情報の領域が異なりますので、両方のイフェクト情報の内容が同じでなければ、響きは異なることになります。マルチティンバーで鳴らした音と、パッチモードで鳴らした音とは違って聞こえるという理由はこれです。
JVとSCの違いは、パッチモードが有るか無いかです。JVはもともと手弾きのシンセサイザ用の音源なので、単音をとことん調整可能にさせるというコンセプトで作られています。パッチモードというのは、このコンセプトに迎合するためのモードで、サルでもJVを弾けるようにするために用意されたモードじゃないかと思います(^^;;;。DTMユーザにとっては、このモードがあるために、マルチティンバーでの調整が無闇と難しくなり、結果としてサル並になるということじゃないでしょうか(^^;;;。
冗談はさておき、問題は、パッチモードの「単音をとことん」(個々のパッチコモンのイフェクト)という考え方とマルチティンバの複数の音色を同時に鳴らすためのシステム全体のイフェクトという考え方がバッティングする点です。ある音色のとことんチューニングした単音のイフェクトをシステム全体のイフェクトとしてに設定すると、他の音色がとんでもない音で鳴るというわけです。
JVもSCもイフェクトの数は一つ、個々のパートはシステム全体のイフェクトのかかり方(出力値)を調整できるだけという仕組みはどちらも同じです。従って、この出力値を調整することにより、JVでもSCと同じレベルの調整はできます。ただ、JVの場合、パッチモードというのがあるため、イフェクト関連の情報がシステム全体(パフォーマンスモード)と個々の音色毎(パッチモード)の両方でコントロールできるようになっていて、話を分かりにくくしているわけです。
JVのもう一つの問題はこの個々の音色のイフェクトとシステム全体のイフェクトのパラメータの関連がちゃんと記述されていないことです。個々の音色のイフェクトのパラメータはパッチコモン領域にあり、システム全体のイフェクトのパラメータはパフォーマンスコモン領域とパフォーマンスパート領域にあるのですが、同じような名前のパラメータがあっちこっちあり、錯綜していて、「なにがなんだか分からん」状態となります。これもローランド社がJVを使うDTMユーザをサル並にするための陰謀じゃないでしょうか(^^;;;。
このイフェクのパラメータですが、ちゃんと説明しようすると膨大な記述になります。ここではクラシック系の音楽で音色調整するために必要な情報に限定して話を進めます。詳細を知りたいという方は僕のウェブページの「イフェクトの謎」の項を参照して下さい。
7.EFX
JVは手弾きのシンセサイザの音源という性格から、EFXを使用した音色(パッチ)がいっぱいあります。特にポピュラー系のパッチでは、EFXを効果的に使うと、面白い効果をだせるので、最近の音色になるほど多用されています。このEFXを使った音色ですが、JV-1010の場合、EFXはコーラス、リバーブなどと同じく、システムに一つしかありませんので、マルチティンバで異なるEFXを使う音色を同時に鳴らすと、音はちゃんと鳴ってくれません。
クラシック系の音色では、オーケストラ1カードはEFX登場前の製品なので、EFXを使った音色はありません。ただ、セションカードを含む内部音色でクラシック用に使えそうなものについては、EFXを使っているものがかなりありますので、要注意です(例えば、セションのピアノはステレオイコライザを使っていますし、インターナルCの Harp on it はコーラスディレイを使っています)。
EFXを使った一つの音色(EFXが共通なら複数でもよい)とEFXを使わない複数の音色を混在させることは問題ありません。個々のパートがどういうイフェクトの使い方をするかは、TempPerfPartのOutput-Assignで指定することができます。ここの部分はややこしい話があるので、次項に続きを。
8.イフェクトの謎(イフェクトパラメータの相互関連)
8-1.システム全体のイフェクト(パフォーマンスコモン情報)
「個々のパートがどういうイフェクトの使い方をするかは、TempPerfPartのOutput-Assignで指定する」と書きましたが、その前にTempPerfComのEFX-Sourceでシステム全体としてどういうイフェクトの使いかたを指定する必要があります。
EFX-SourceはPERFORMかパート(テンポラリ番号に対応するPerfTempPatのことです)の1-9、11-16を設定できます(10は打楽器用のパートなので、使えない)。ここで設定されたイフェクトがシステム全体のイフェクトとなります(JV-2080の場合はEFXが三つあるため、もっと複雑になるのですが^^;;、省略)。ここで言うイフェクトとはEFX、コーラス、リバーブの関連のパラメータを集めたパフォーマンスコモン(0D-31)またはパッチコモン(0C-30)情報のことです。何を言ってるだかよく分からんという方はマニュアル巻末のインプリメンテーションをご覧になって下さい。
TempPerfComのEFX-Sourceですが、MIDIデータではPERFORMを指定しておくのが無難です。マルチティンバ状態で、イフェクトは全てのパートに関して共通ですから、個々のパートの情報を使うのでなく、共通のパフォーマンス領域の情報を使った方が分かりやすいでしょう。工場出荷状態のディフォルトはパート1となっていますが、これでは、システム全体の設定が特定のパートに肩入れしたように見えて、分かりにくくなると思います。
8-2.パートのイフェクト(パフォーマンスパート情報)
話を「個々のパートのイフェクトをどうするか設定するか」に戻します。関連するパラメータはパフォーマンスパートの Mix/Chorus/Reserve Send-Level と Output-Assign です。
Mix/Chorus/Reserve Send-Level ではパート毎のMix/Chorus/Reserveへの出力を指定します。6項で「個々のパート(チャネル)毎にコーラス、リバーブの出力を調整することはできる」と書きましたが、ここで指定するわけです。
Output-Assign は個々のパートの出力がどういうイフェクトの使い方をするか決めます。MIDIデータで使える設定としては、MIX、EFX、PATCHがあります。
MIX、EFXを指定した場合はパッチトーンの Mix/Chorus/Reserve Send-Level 及び Output-Assign は無視されて、パフォーマンスパートの Mix/Chorus/Reserve Send-Level 及び Output-Assign でミックス、コーラス、リバーブの出力値とEFXの使用するかどうかが決まります。さて、話をますますややこしくするのですが(^^;;;、パフォーマンスパートの Output-Assign をPATCHに指定した場合は、個々のパートの出力は、パフォーマンスパートの Send-Level とパッチトーン(最大4個ある)の Send-Level の掛け算で決まります。
計算されたパフォーマンスパートのコーラス及びリバーブの値はシステム全体のイフェクトのChorus-LevelとReverb-Levelと掛け合わされ、最終的なコーラス及びリバーブの出力レベルが決まります。文章だけでは理解しずらいと思いますので、図示すると以下の通りとなります。
Patch-Tone Perf-Part Perf-Common
[Wave-n]---MIX SL ---MIX SL ---------------------------|
| |
|-Chorus SL---Chorus SL---Chorus Level--[Chorus]--|--> Output
| |
|-Reverb SL---Reverb SL---Reverb Level--[Reverb]--|SL : Send Level
MIDIデータでは、パフォーマンスパートのOutput-AssignはPATCHにしてパッチトーンのSend Levelでイフェクトを調整するのが分かりやすいです。理由はパッチ情報との関連がありますので、次項に書きます。
実は、個々のウェーブがEFXを使うかどうかも、パッチトーンの Output-Assign で指定することができます。上の図はパフォーマンスパートのOutput-AssignがPATCHでパッチトーンのOutput-AssignがMIXの一番シンプルなモデルです。これ以上を知りたいという方は僕のウェブサイトを参照して下さい。
8-3.音色(パッチ情報)
JV/XPシリーズでは個々の音(パッチ)は最大4つのウェーブ(トーン)から構成されていて、個々のウェーブをパッチトーン領域を使って操作することができます。尺八とサインウェーブとか(^^;、ガムランゴングとドラとか(^^;、サントゥールとピアノとか(^^;を組み合わせた仮想の楽器の音色をいくらでも捏造できるわけです(^^;;;。イフェクトもいろいろな方法でかけることが出来て、たとえばリングモジュレーションなんて機能もありますから、シュトックハウゼンなんかやるには最適かもしれません(^^;;;。
クラシック音楽をやるには、そんなことしないよと思われるかも知れませんが、クラシック系のパッチでもこのウェーブを組み合わせた音色作りをしてますので、内容を理解する必要があります。このパッチのパラメータ(Sysex)ですが、全体に共通のパッチコモン情報と個々のウェーブ毎のパッチトーン情報に分かれます。
8-3-1.パッチコモン
パッチコモン情報はシステム全体のイフェクト(EFX、コーラス、リバーブ)に関連するパラメータとそれ以外の共通のパラメータからなります。
パフォーマンスモードの時、PerfTempPatComのイフェクト情報は、TempPerfComのEFX-Sourceを自分自身のPerfTempPat領域に指定した場合にのみ有効です(8.1項参照)。逆に言うと、TempPerfComのEFX-SourceでPERFORMを指定すると、パフォーマンスモードではイフェクト情報は無視されます。この場合、パフォーマンスモードで、パッチモードと同じ鳴らし方をさせたければ、パッチコモンのシステム全体のイフェクト情報をTempPerfCom領域にコピーすればいいわけです。この時、PerfTempPatに対応するTempPerfPartのOutput-AssignはPATCHにする必要があります(理由は次項で説明します)。
パッチコモンのイフェクト情報以外の共通のパラメータで操作する必要のあるのは、レベル、パン、アナログフィール、ポルタメント、ピッチベンド、オクターブ位です。こちらはGSのCCで指定するのと同じ感じで操作できますので、問題ないでしょう。
レベル、パンに関してよく分からないのは、ここの指定とトーン及びパフォーマンスパートで指定するレベル、パンとの相互関係です。これはいまだ謎でどうやっても楽器の定位が決まってくれないような気がする(音高によって定位がふらつく)のですが、誰かご存じの方、教えて下さい。8-3-2.パッチトーン
次に、パッチトーン情報ですが、パン、LFO、ピッチ、音色の変化(TVF)、音の立ち上がり/立ち下がり(TVA)などトーン内にクローズする情報と、コモン、パフォーマンス情報との関連で指定しなければならないイフェクト関連の情報に分かれます。
パン、LFO、ピッチ、TVF、TVAなどの一般情報については調整の仕方はGSと同じです。ただ、パラメータの種類はGSより多くなっていますし、複数のウェーブを使って音色を構成している場合は、各ウェーブの調整の組み合わせで全体の音色が決まりますので、調整の範囲ははるかに広いです。このへん、僕はまだパッチそのままで、使いこなせていません。とてもそこまで手が回らないという状態です(^^;;。
ここで必ずいじる必要があるのは、Tone-PanとAlternatePan-Depthです。Tone-Panについては定位させたい値を、AlternatePan-Depthについては0を指定しましょう。オーケストラカード1の場合、AlternatePan-Depthは1以上の値が指定されていますが、これだと一音ごとに左右にパンがふられて、こまったことになります。
あと、チェロやフルートなどの音色はキーボードで弾きやすいように、オクターブシフトされています。これはMIDIだと具合が悪いので、コモンのOctave-Shiftか、トーンのCoarse-Tuneで調整しておく必要があります。さて、ようやく本題に戻って、パッチトーンのイフェクト関連の情報について。パッチトーンではトーン毎に Mix/Chorus/Reserve Send-Level と Output-Assign が指定できるようになっています。8.2項に書いたように、ここの指定は対応するTempPerfPartのOutput-AssignでPATCHを指定した時のみ有効となります。
オーケストラ1カードでは、Output-Assignは、MIXで固定。 Mix/Chorus/Reserve Send-Level については、音色により指定はさまざまです。
8-4.イフェクト関連のパラメータの設定の仕方
推理小説じゃ一番最後に犯人あかしするのですが、JVの場合、謎が複雑すぎて、ますます混迷の度が深まるだけ(^^;;。対応策はなるべくシンプルにすることです。
オーケストラカード1を使った場合、EFXを使った音色はないので、指定する必要のあるパラメータは Mix/Chorus/Reserve Send-Level だけです。JVの音色は最大4つのウェーブの組み合わせで決まりますが、このウェーブ毎に値を指定するという方法をとります。
で、まず、図から。
Patch Tone Perf Part Perf Common
[Wave-10]--Mix SL --|-Mix SL ---------------------------|
[Wave-12]--Mix SL --| |
[Wave-14]--Mix SL --| |
[Wave-16]--Mix SL --| |
|
[Wave-10]--Chorus SL--|-Chorus SL--Chorus Level--[Chorus]--|-->Output
[Wave-12]--Chorus SL--| |
[Wave-14]--Chorus SL--| |
[Wave-16]--Chorus SL--| |
|
[Wave-10]--Reverb SL--|-Reverb SL--Reverb Level--[Reverb]--|
[Wave-12]--Reverb SL--|
[Wave-14]--Reverb SL--|
[Wave-16]--Reverb SL--|SL : Send Level
8.2項の図をウェーブ単位に書き直したものですが、使用するパッチが4つのウェーブ全部使っているとするとイフェクトに関してレベル調節できるパラメータが17箇所あることになります。さらにパフォーマンスコモンのChorus LevelとReverb Levelはシステム全体で一つだから、ここをいじると他の音色に影響します。これをパッチ毎にバラバラに調整していると、何がなんだか分からなくなります(^^;;;。
シンプルにするには、パフォーマンス部分のレベル調整は固定にして、パッチトーンだけで操作することです。パフォーマンス側のレベルは全て最大値(127)に固定してしまい、パッチトーンのセンドレベルをパッチモードの鳴り方に近い数値にすれば、パフォーマンスモードとパッチモードの音は同じ感じになります。
また、この時、パフォーマンスコモンのコーラスとリバーブのレベル以外のパラメータはクラシック系の音色の最大公約数の標準値とする必要があります。これで操作する部分はパッチトーンだけとなります。またオーケストラカード1の場合、普通の音色は1つか2つ位のウェーブしか使っていないですから、GSなみの操作でリバーブ、コーラスを設定することができます。
以上をまとめると、パフォーマスコモンのEFX SourceをPERFORMに、Chorus LevelとReverb Levelを127に、パフォーマンスパートのOutput Assignを全てPATCHに、MIX-EFX/Chorus/Reverb Send Levelを127に設定して、パッチトーンのMIX-EFX/Chorus/Reverb Send Levelで調整するということです。
もちろん、「俺はそんな妥協は嫌いだ。とことん全てのパラメータをいじって、完璧を目指す」という方は止めません(^^;;;。頑張って下さい(^^)。クラシック向きのいい設定ができたら、是非公開していただいて、皆で共有しましょう。
9.おわりに(ちょっとだけ宣伝)
JVシリーズはシンセサイザの補助音源として使われるのが前提ですので、以上書いてきたような目的で、バルクダンプ(Sysex)を編集できる適当なプログラムがありません。しかたがないので、自作しました。で、ちょっとだけ宣伝(^^;;。
最初はCakewalk対応の汎用のSysexエディタとして作っていたのですが、JVをいじりはじめて、MIDIファイル用のSysexの編集はとても手作業じゃやっていられないと分かり(^^;;、JV専用のエディタにしちゃいました。
・音色リストからテンポラリパフォーマンスパッチ又はユーザパッチ領域にパッチデータをコピー。
・イフェクト画面でパン、コーラス、リバーブなどを調整(8項で説明した内容)
・エデット画面から編集した結果をsyx/midファイルとして保存という感じで、初期音色設定用のMIDファイルを簡単に作ることができます。
一度作ったsyx/midファイルは再読み込み可能ですので、修正も簡単です。エディット画面を使えば、イフェクト以外の情報もパラメータの説明を見ながら、編集可能です。エデット画面での編集も全てのパート領域/トーン領域をまとめて処理することができるので、効率的です。イフェクト画面ではパフォーマンスとパッチのイフェクト情報をまとめて処理し、パラメータを変えると、前項で述べたJVの動作をシミュレートし、表示します。また、調整中の音色のパッチモードの値も参照しながら、操作できますので、比較的簡単にイフェクトの調整を行うことができます。また、編集中にパッチモード、パフォーマスモードの音を比較して聴きながら調整することができます。
syx/midファイルにはクラシックのデータ用に調整した初期設定用のシステム、パフォーマンスのSysexも自動的に付加されますので、そのまま演奏すれば、音源の初期化を行うことができます。
midファイルは
・Sysex長を計算して送出タイミング送信のデルタタイムを自動設定
・cc07/11(バランス調整用)、cc00/32(音色切り換え用)のデータを自動設定
・cc07/11の値はiniファイルに設定可能
・ch10はGMの1番のパーカションセットを自動設定
されますので、まったく修正なしにそのまま使えます。音色の切り換えもcc00/32がユーザパッチに設定されていますので、PCを一つ送るだけでOKです。というところがセールスポイントですかね。JV買ったけど、MIDIデータが作れないと困っていらしゃる方にはお勧めです。僕のウェブサイトに最新版がありますので、そちらからどうぞ。
JVではユーザパッチはsyxファイルとして共用可能ですので、クラシック用の楽器設定を集めたユーザパッチのバルクダンプを作れば、皆でこれを共通に使うことができます。
JVユーザが増えて、FMIDICLA用のディフォルトのユーザパッチがいろいろ集まれば、JVでのMIDIデータの制作も、随分、楽になるのじゃないかと思います。
JV-1010の目次のページに戻るのであれば、ここをクリック。