銅鑼について

SUB:銅鑼の本(長文です)

近所の図書館に行ったら、「銅鑼−そのルーツを訪ねて−」(岡本文雄著、ビジネ
ス教育出版)という本を見つけたので、借りてきました。著者は四国で楽器店を経
営し、かたわら銅鑼を中心とする青銅楽器の研究の碩学の士であった人のようです
。残念ながら昨年亡くなられ、この本は今年一月出版されていますから、遺稿とい
うことになります。このフォーラムには、銅鑼の愛好家の方がいっぱい(?)いら
っしゃるようなので、簡単に内容をご紹介します。

銅鑼は青銅楽器起源の楽器ですが、鐸、鈴、鐘、鉦などと比較すると比較的新しい
音具で、文献、遺品などから判断すると、AC数百年頃、中国南部/東南アジアで
誕生したようです。中国では主に野戦の道具として、戦陣の合音具/炊飯用具(ひ
っくりかえしてフライパンの代わり)に使われ、東南アジアでは主に仏教音具とし
て、祭事、舞踏に使われて、色々なタイプのものが作られてきました。

楽器としての発展は東南アジア各国の遺跡に様々な証拠がのこされており、インド
ネシア/シャイレンドラ王朝(AC750〜850)のボロブドール寺院、カンポ
ジア/クメール王朝のアンコール・トム(AC11世紀)、同じくアンコール・ワ
ット(AC12世紀)の壁画に銅鑼が入った器楽合奏図が描かれているそうです。
この他、タイ、ビルマ、ラオス、フィリッピンなどに数々の銅鑼の絵のある史跡が
あり、銅鑼が東南アジアで愛されたこと物語っています。

楽器として最も盛んに使われたのは、ご存じのとおりインドネシアのガムラン音楽
で、ジョグジャカルタ王家では、王宮の音楽の楽器として制作にも独特のルートを
もち、楽器の工房もあったということです。インドネシアの銅鑼(ゴング)の特徴
はピッチのあることで、他の国々の自由なピッチの銅鑼と大きな違いとなっていま
す。この点でも、楽器としての銅鑼の開発はインドネシアで進められたといえるで
しょう。

東南アジアの銅鑼は、平板式(丸い平らな円盤状のもの)、盆形式(すき焼き鍋型
のもの)、鉦鼓式(縁ありフライパン風のもの)、瘤形式(盆形式の中央に瘤があ
るもの)、複式瘤形式(瘤形式のものの円盤を2段にしたもの)、壺形式(その名
の通りの形で、底の円盤の真ん中に瘤あり)に分類できるそうです。東南アジアの
銅鑼の特徴はこの瘤(表面中央の半円球の突起)で、乳とも呼び、音を落ち着かせ
る効果もあるようです。また表面には様々な文様を施したものが多くあります。

この突起のある銅鑼はしだいに北進し、中国の銅鑼にも影響を与えたようです。
一方、中国産の平面のものは南進し、波及経路の接点地域では、仏教文化の影響を
受け、俗信の舞踏などの行事にも銅鑼が重要な役割をもつようになったそうです。
この結果、タイ、カンポジアなどの原住民にも、どれが自国民のものかわからない
ほどになっているとのことです。

文献によれば、中国においては、銅鑼が民間で使われた事例はすくなく、戦陣以外
では京劇の伴奏や集団の祭事などを除いてあまり見受けられないそうです。
近世中国銅鑼には大鑼、泰来鑼、平鑼、風鑼、小鑼、京鑼、雲鑼なと様々の種類の
ものがあり、この中で泰来鑼(タムタム)がヨーロッパに渡り、近代オーケストラ
に使われるようになりました。

銅鑼は、南蛮ドラとして東南アジアから直接の渡来したルートと、中国系のものが
朝鮮を経由するルートで、日本にも入って来ました。
朝鮮では銅鑼は仏教寺院での宗教的な使われ方が中心だったのですが、日本では多
少様相が異なったようです。日本に銅鑼はどう入ってきたか、以下、本文から直接
の引用です。
『日本に銅鑼が伝来してからは、南蛮銅鑼あるいは南蛮鉦などと称されていたが、
当時は中国南部やタイ、インドネシア、フィリッピンの人びとを、大雑把に「南蛮
人」と呼んで、大声で蛮声、どら声、習俗で野蛮などといわれていたから、はじめ
から音が大きく、よい音ではなかったようである。しかし渡来した銅鑼や文様はは
なはだ珍重されていて、俗人では手にすることなどとても叶わないものであった。
』そうです。
その後、銅鑼は茶道の客人を迎える合図に使われるようになり、和風の典雅な響き
のものが国産されるようになったのはご存じの通りです。

以上、「銅鑼−そのルーツを訪ねて−」のご紹介でした。数十点の銅鑼のカラー写
真も入っており、なかなか楽しい本でした。

                                                        窪田 洋(TBE00266)

ps. 銅鑼の音楽というと、シュトックハウゼンのミクロフォニーという作品を思い
出しますね。銅鑼の縁や表面を弦楽器の弓、木や金属の棒で擦り、出てくる音をマ
イクで拾い、電気的に変調増幅するという曲でした。多分、クラシック音楽では唯
一の銅鑼のソロ作品だと思いますけど、ちょっと誰にでもお勧めするという訳には
いきません。
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SUB:RE^2:銅鑼の本(長文です)

永田さん、こんにちは。

|いつも使っている中華鍋をひっくり返して叩いてみましたが、安物のせいか
|あまりいい音はしませんでした。

あらららら。白状すると、実は僕もこの本に刺激され、フライパン、すき焼き鍋、
中華鍋など叩いてみたのですが、あまり良い音のするものはありませんでしたね。
薄い鍋は音に深みがでないし、肉厚のものは、取っ手が付いていたり、テフロン加
工してあったりするためか、ロクな音がしない。いろいろ試していたら、とうとう
女房に「バカなまねは止めなさい」と怒られてしまいました。

| クセナキスの作品には「タイのゴング」と称してピッチの指定された銅鑼
|が使われていますけど、これはインドネシアのやつと同じなのかしら?

違うようです。タイのゴングはインドネシアのものと比較するとかなり大きめで、
深みの有る、低い、日本の寺の鐘の音から諸行無常の響きを取り除いたような音で
す。
クセナキスは素晴らしい打楽器の曲を作曲していますね。僕が感心したのは「ペル
セファサ」という打楽器アンサンブルの曲です。20年以上前になりますが、スト
ラスブールパーカショングループの東京公演でこの曲を聴き、ほんとに感動したこ
とを今でも鮮明に思い出します。

ところで銅鑼愛好家に必携(?)のCDがありますよ。以前、別のメッセージに書
いたのですが、立花隆が制作した吉原すみれのソロアルバムがそれで、タイのゴン
グ、クロマティックゴング、ガムランのゴング、中国のゴング、タムタムの特殊奏
法などふんだんに入った、銅鑼愛好家には垂涎の内容のインプロヴィゼーション演
奏が収録されています(第1曲「インターバル」)。楽器の写真とタイムチャート
付きの解説があり、どの楽器がどんな音色か良く分かるので、勉強になります。

                                                        窪田 洋(TBE00266)
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SUB:RE^5:銅鑼の本(長文です)

K&Aさん、こんにちは。

|これは持ってないんですよ.一般CD屋ではなかなか出回ってなかったのではない
|かしらん.

そういえば、通信販売で手に入れました。立花隆の新刊書に入っていたパンフレッ
ト(というのかしら)に申し込み方法が書いてあったと思います。

                                                        窪田 洋(TBE00266)
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SUB:銅鑼の特殊奏法
mes14 #341 へのコメント

K&Aさん、こんにちは。

|あと,銅鑼をトライアングルのばちで擦るという音が欲しかったりするのですが
|いい方法はないかしらん(^^;)

銅鑼を弾いたことはないので、よく分からないのですが、レコードの音から判断す
ると、金属的な摩擦音だから、SC88MAP 96番の SWEEP PAD系の音色はいかがでしょ
うか。あと、雑音成分の多い音だとすると、ATTACK値をおもっいきり大きくしたヒ
チリキの音も意外にいけるのではないかと思いました。

ところで、「銅鑼をトライアングルのばちで擦る」って何の曲ですか。日本人作曲
家のオーケストラ作品かしら。

                                                        窪田 洋(TBE00266)